暗殺されたマルタ人ジャーナリストに思うこと

暗殺されたカルアナガリチア氏と息子のマシューさん(写真:Matthew Caruana Galizia)

 

10月16日、車に仕掛けられた爆弾で暗殺されたダフネ・カルアナガリチアさん (53) は、マルタで知らない人はいないほど有名なジャーナリストでした。私もマルタ在住時から彼女のブログを読んできた一人です。マルタに関する本を執筆中の主人は連絡を取り合う仲だったので、このニュースを聞いた時は愕然としました。

ダフネさんは80年代後半よりジャーナリストとして活動を始め、マルタの政治汚職や社会問題を次々と暴露しました。ブログRunning Commentaryにも見られた彼女特有の報道スタイルは辛辣きわまりなく、マルタ首相をはじめ、政治家、警察、弁護士、国内外のビジネス業界のあらゆる権力者を敵に回す衝撃的なものばかりでした。おそらく内部情報を提供してくれる強力なネットワークが存在したのでしょう。国のメディアもダフネさんのブログを追いかけるようにして記事を書いていました。

マルタには「ダフネのブログを読んでるよ」と告白するのを躊躇するくらい、大勢の人間が彼女を嫌悪していました。小さなマルタ社会では、誰がどこでどうつながっているかわかりません。右も左も容赦なく批判したダフネさんを支援することは、自分が知ってる誰かに中指を立てることになるかもしれないのです。下手をすると、自分や家族の立場までもが危うくなることもあるのです。うわさ話はするけれど、社会を良くしようと声を上げ、行動に移そうとする人はごく少数です。そんな国でダフネさんは異色で貴重なジャーナリストだったと思います。

彼女を暗殺した正体は何なのか。ダフネさんのブログには、アゼルバイジャンやリビア、マフィア組織、ヘンリー・アンド・パートナーズ、オフショア企業など、マルタが裏取引したと思われる様々な事例が証拠と共に取り上げられました。そのほとんどが金がらみです。もしかしたら、マルタの政治家ではもはや対処できないレベルの圧力が存在するのかもしれません。これら全ての要素が絡み、「一匹狼」で真実を追求し続けたダフネさんを死に追いやったのです。それも、Car bombという野蛮な方法で。

彼女が死の直前30分前に投稿したブログは、この文章で結ばれています。

“There are crooks everywhere you look now. The situation is desperate.”

「今やどこを見ても犯罪者ばかり。この状況は絶望的だ。」

マルタにとって、実に大きなロスです。

私はもうマルタには住んでいませんが、過去6年間の在住で出会った多くの友達のことを思うと、本当に胸が痛いです。どうかダフネさんの死を無駄にしないでほしいと、切実に願います。

 

過去に掲載したこちらのブログも合わせてご覧ください。

「家族の利益」を重んじるマルタ社会が生み出した政治汚職スキャンダル

 

写真:暗殺されたカルアナガリチア氏と息子のマシューさん(©Matthew Caruana Galizia)

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